停滞系男子

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 俺と深海は大学の英会話サークルに所属している。大学生たるもの英語の一つや二つは操れて当然、否応なく押し寄せるグローバル社会の波を俺は華麗に乗りこなす。  当然、そんなふわふわとした動機で第二言語を習得することはできない。  俺には、語りたいことなどないのだ。  早々にサークル内のトップ集団から脱落した俺は、深海とともに品のないスラングの研究に没頭した。冷酷無比なテロリストである俺は、掟破りのFBI捜査官シンジ・シンカイと丁々発止と渡り合い、その様はごく一部でまぁまぁウケた。今ではそれにも飽きて、部室に顔を出しても脱落組と日本語で雑談という日々である。こんなことが許される緩いサークルなので、籍を置いたまま幽霊になってしまう学生も少なくない。会員数はやたらに多いので、一度もコミュニケーションをとったことのない人間も結構いる。 「一条(いちじょう)美加(みか)さんって知ってる? ていうか、見たことある?」 「馬鹿にするな。知ってるし話したこともある」  ほんの少しだが。     
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