冒頭

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 暗い森を馬車が走る。雨上がりのぬかるんだ地べたを、馬の蹄が蹴って泥が舞う。夜明けまで、未だ暫く時間はあるだろう。黒いフードを被った運転手が、隙間のあいたガラス瓶を翳す。瓶の中の僅かな蝋燭が、走る道を頼りなく照らしている。舗装されていない道を走る馬の足音だけが、静かな夜に響いていた。  馬車の中には、四人の男が二人ずつ並び、向かい合って座っていた。四人に面識はない。つい数刻前に顔を合わせたばかりだ。それから誰も喋ることなく、じっと馬車に揺られている。  目的地に到着するのは、夜明け頃だと言われていた。だから、何とか少しでも睡眠をとろうと試みる。そして、うとうとしたところで、背中を壁に叩かれて起こされる。その繰り返しだった。痺れるような眠気を覚えて、一人の男が瞼を擦り、伸びをする。  黒い髪に、黒い瞳。美少年とは、お世辞にも言えない。かと言って、無骨な戦士のように屈強な身体つきをしている訳でもない。山奥の小さな村で、生まれ育った男だ。温暖な気候のお陰で健康ではあったが、自慢できることと言えば、むしろそれぐらいしかない。  名前はオリオン。齢、十五歳。彼はこれから、初めての戦場に赴くところだった。 ~~中略~~  粗末な布を被った、俺よりも背丈の小さい男だった。いや、男というよりも少年と呼んだほうが正しいかもしれない。随分と小柄だった。これまで、ぴくりともしなかった少年が、頭を揺らして首を鳴らした。見た目は少年なのに、どうも所作が、らしくない。どうして良いかわからずに戸惑っていると、薄汚れた布の下の青い瞳が俺を見た。 「あっ、その、すみません」  思わず、謝ってしまう。 「何だ、起きてたのか坊主」  ベルターの台詞に驚いた。この二人は知り合いなのだろうか。俺の戸惑いに気づいたのか、ベルターは快活な声で言う。 「ああ、この坊主はレリアって名前でな。と言っても、俺も名前しか知らんのだが」 「レリア、さん?」 「……レリアで良いよ」 ~続く~
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