77人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
暮野の食欲は尋常じゃなかった。食べ放題一時間三〇分プランの時間内に、八神の頼んだセットメニューの五倍は軽く食べている。こんな店泣かせな客は多分久しぶりなのだろう。従業員同士で困った顔をしながら、暮野を見てひそひそと小声で囁き合っている姿に、八神は自分のことじゃないのに、とても居心地の悪さを感じてしまう。しかも、彼はひたすら食べ続けるだけで、メモに書かれていたような好きな本についての話など一切触れてこない。八神は唖然としながら目の前の暮野の異常な食欲に、ただただ目を奪われているだけだった。
「やばい! 肉が旨すぎて箸が止まんない!」
暮野は興奮しながら食べる手を休めない。八神は既に自分の分は食べ終えていて、普通に満腹だった。時計を見ると、食べ放題のタイムリミットが近づいている。
八神はそのことを暮野に伝えると、暮野は恨めしそうに八神を見つめた。
「ん~、まだ食えるのに」
暮野は悔しそうにそう言うと、今度はデザートメニューに目を通し始める。
「あんたは? 甘いもん好き?」
「え? は、はい。大好きです。アイスとか特に」
「へ~、気が合う。ねえ、これ一緒に食べない?」
暮野は嬉しそうにそう言うと、特大フルーツパフェを指差した。あまりの大きさに八神は少し躊躇ったが、暮野と一緒なら食べきれるだろうと思い直し、「いいですよ」と答えた。
「よし! そうこなくっちゃな。焼き肉の最後のシメはアイスって決まってるし」
誰が決めたんだろうと思ったが、暮野は当たり前のようにそう言うと、店員をもの凄い大きな声で呼び、パフェを二つ頼もうとしたので、八神は慌てて制止した。
「一個でいいです! 何なら僕は食べなくても平気ですよっ」
「え? そうなの? そうか……じゃあ、これ一つください。あ、スプーンは二つね」
最初のコメントを投稿しよう!