yagami 2

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 八神は利用者からリクエストされた本の発注を済ませると、腕時計に素早く眼を遣った。今日は遅番なので一九時に仕事が終わる。今気づいたが、八神が遅番だということを彼は何故知っていたのだろう? こんなことを考えるのはとても烏滸がましいが、まるでストーカーでもされているような気分だ。まあ、冷静に考えれば、自分をストーキングする物好きなどいるわけがないが、そんな想像をすると少しだけ気分が高揚してくる。自分でもそんな自分を痛い奴だとは思うが、あのメモをもらって以来自分の脳味噌は、ふわふわした綿菓子みたいになってしまって本当に困ってしまう。 「すみません。今日の分は発注済みました。お先に失礼します」 「あ、お疲れ~」  八神より二年先輩の池田浩二(いけだこうじ)が面倒くさそうに返事をした。彼は性格も見ためもねちっとした、湿度の高い粘着質な男で、すべての職員から嫌われている。彼に比べたら、自分の方がまだましなんじゃないかと思えるから相当だ。素直じゃない捻くれた性格。相手を思いやる思慮深さなど皆無な、自分勝手で我が儘な男。何一つ良い所が見つからない希有な人間だが、こと、図書館司書という仕事へのプロ意識の高さは、他の職員の追随を許さない。彼の豊富な知識と高い頭脳に皆が依存しているのは事実だ。だからこそ面倒くさいのだ。彼の精神は元々幼稚で未成熟なため、すぐに調子に乗るし、傲慢になる。自分は誰よりも仕事ができ、誰よりも優秀。そう信じて疑わない彼のプライドを傷付けようものなら、ねちねちとその相手をいじめ抜く。もし心の弱い人間だったら、最悪、退職まで追い込まれてしまうこともあり得る。こんな害虫みたいな男が、何故悠々と     
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