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「何で謝るの? それおかしいでしょ。あんたの無意識を恥ずかしいとか思うなよ。誰かと自分の好きな本を共有したいって気持ちの表れだろう?」
「ぼ、僕がそんなことしたら、大概の人に、き、気持ちが悪いと思われます。変な奴だって、蔑まれて終わりですから」
「……あんたはいいの? それで」
「はい?」
「それでいいのかって聞いてんだよ」
あの時、カウンターに並んだ利用者に言ったみたいに、暮野は低い迫力のある声で八神に言った。
「え……く、暮野さん、怒ってます?」
自分が暮野を怒らせるようなことをしたのかと思ったら、頭がグルグルと目眩のように回り、こめかみがトクトクと脈を打ち始める。
「……ったく。怒ってないよ……でも、あんたは変わんなきゃ駄目だ。絶対に」
「変わる?」
「そう」
怒ってないということが分かり安堵したら、気が抜けたせいで涙がじわりと滲んだ。でも、暮野の言っている「変わる」の意味を、八神は良く理解できていない。
「俺が変わらせてやるよ」
「は、はい? どういう意味ですか?」
「ああ、もういいよ。手始めに、明日の仕事終わりにさ、あんたのその岩のりみたいな鬱陶しい前髪をどうにかしないと。話はそれからだよ……よし。食おう。溶けたアイスほど不味いもんないぜ」
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