kureno 1

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 これは一体どの口がほざいた言葉だ? 自分の潜在意識の中に、実に慈悲深いキャラが潜んでいたってことか。いや、自分だってそんな冷酷な男じゃない。この任務とは関係なく、普通に八神と接していたら、本の趣味をきっかけに仲の良い友人ぐらいにはなれるかもしれない。確かに性格はひどく根暗で、自分に自信がなく、常におどおどしているところがイラつくが、人の気持ちがわかる優しい雰囲気は嫌いじゃない。それに一番は、自分と同じ、「本を愛している」ところだ。しかも、好きな本が似ているという奇跡まで付いてくる。  暮野は昔から気になることがあると放っておけない性格だった。近所にあった図書館に行き、気になることを片っ端から納得するまで調べるのが好きだった。気が付いたら閉館時間になっていて、母親が心配して暮野を探しに図書館まで来たことが何度かあった。あの時の母親の怒りの形相を暮野は一生忘れない。「心配」し過ぎて怒りがこみ上がるって気持ち、幼い暮野にはまだ分かっていなかった。  暮野は図書館を拠り所にしていた。嫌なことがあれば図書館に行き、手当り次第本を読んだ。本の世界に没頭していれば、その時間だけ嫌なことを忘れることができた。暮野にとって最高の逃避場所であり、まるでシェルターに守られているような安心できる場所だった。     
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