kureno 1

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冷凍されている殆どが無用の長物だ。残念ながら今まで成功したためしなど一度もない。だから今回、今までのやり方を見直し、新たな方法であれを採取する政策を国は打ち出し、実行に移した。国が秘密裏に運営している暮野が働く機関は、早い話国民の税金で成り立っている。もしこの新たな方法で成果が全く得られないとなれば、この機関も、暮野たち自身の立場も危うくなる。こうやって何とか生活できるのもこの機関で働いて給料を得ているからだ。でもそれは、政府が、繁華街の外れにある人目の付かないハッテン場に潜入して張り込み、容赦なく二十歳を過ぎたゲイを選出・拉致し、この機関で強制的に働かせるというシステムからだ。まあ、そのシステムのおかげで、暮野たちは食うに困らない生活を得られているが、所詮ゲイという立場では、それを拒否する権限など無いに等しい。今の日本での暮野たちの立場は低く、非国民扱いのようなもの。結局暮野たちは、ひどい差別に抗う術もなく、上からの強い力に蹂躙されている。  そして、今回のその新たな方法というのがこれまたあり得ないくらいナンセンスで、現実味に欠けている。はっきり言って、国ぐるみで考えたこの政策は、暮野たちマイノリティーへの侮辱としかあり得ない。いくら暮野たちがマイノリティーであっても、こんな人権を無視した政策に従わなければならない道理があるだろうか。それもこれもすべてこの機関の所長である大津臣(おおつじん)が悪い。この計画の発案者は彼だ。もうここまで追い詰められたら、どんな方法でも試す価値があるという所長なりの捨て身の覚悟なのだろうが、彼がどうか夢見がちの、ただのロマンチストのアホでないことを切に祈る。彼が言うには、世界的にも有名な性科学者。超一流のメンタリストや力の強いスピリチュアリストに協力を得たというが、それが今現在暮野をこんなにも悩ませているという事実を、彼は多分ひとつも理解していないだろう。というか、何がなんでもこの計画を成功させなければならないというプレッシャーを一心に受けているのは、確かに所長の臣ではあるが、あいつは自分でそれをしない……狡い。本当に無責任で狡い……。     
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