kureno 1

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 もし、臣が発案したこの計画が無意味に終わった場合、暮野が所属する秘密機関は迷わず解散する。この機関に国が掛けた予算は計り知れない。中々成果を出せないでいるこの機関に対し、各省庁から国家予算のごく潰しだと強い批判を受けている状況を踏まえても、致し方ないのは重々承知だ。  今回の計画に与えられた期間は三年間。三年間という期間が、長いのか短いのかも良く分からない。それぐらいこの計画は、霞を掴むような実験的なものでしかない。 「何故ターゲットを選べないんですか? 自分の好みの子だったら話が早いでしょう?」   暮野は以前、臣に切に問いかけたことがあった。臣は言った。 「それは確かに手っ取り早いし、お前みたいのならノンケを落とすのも容易いだろう。でも、そんな容易く手に入れた愛を、俺は純粋な愛とは見做さない。お互いを良く知ろうと努力すること。そこから純粋な愛が生まれるんだよ」と。「ああ、そうかい。じゃあ、てめえがやってみろってんだよ。俺が喜んで代わってやるよ」、そんな台詞を、暮野は心の中でぐっと飲みこんだことを思い出す。  あいつ、八神優弥が美容室におどおどしながら入る。セットチェアに座ると美容師にびくびくしながら注文する。カットされながらそわそわと落ち着きなく体を動かす。その一連の様子を、暮野は憤りと、半ば哀れむような気持ちでぼんやりと見つめてきた。     
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