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気がつくと暮野は、この男と一緒にいることで疲労が自覚なく溜まっていたらしく、うとうとと居眠りをしていた。しばらくすると誰かに優しく肩を叩かれ、暮野はうっすらと両目を開けた。
「誰?」
思っていた以上に疲れていたのか、暮野はすっきり目を開けることができず、霞む視野で肩を叩いた主を見つめた。
「え? や、八神です。來さん。疲れてるんですか? 大丈夫ですか?」
「ん? んんっ、俺寝てた?」
「ええ。寝てました。なんかすみません。こんな僕に付き合わせちゃって」
「また、こんな僕って、そういう言い方やめ……」
「はい? 何ですか?」
徐々に視界がはっきりしてくると、暮野は目の前の男を、目を丸くしながら凝視した。
「……お、お前、誰?」
「え? だ、だから八神……」
(嘘だろう?)
暮野は目の前の男の瞳に一瞬で心を奪われた。やや茶色見がかった黒目は大きく、キラキラと店の電光に照らされ輝いている。その瞳はまるで、生まれたての哺乳類のように潤み、あどけなくピュアだ。その瞳に見つめられると、眼力という言葉の意味を思い知らされる。その瞳には、物事の善悪、真偽を見透かす神聖な力でもあるがごとく、八神の顔に君臨している。どうして今まで、こんな素晴らしいものをこいつはその鬱陶しい前髪で隠していたのだろうか。
「綺麗だ……」
「え?」
「あんたの目。すごく綺麗だ」
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