kureno 1

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 暮野がそう言うと、八神は一瞬で顔を真っ赤にさせ、慌てて自分の片腕で瞳を隠した。 「隠すなって。どうせもう前髪切っちゃったんだから、今更隠しようがないだろう?」 「め、眼鏡かけますっ。ちょっと色の付いた……」 「あははっ、バカだろ? そんなダサいことするなよ……ああ、でもなんか、ほんと別人。正直驚いたな……」  嘘ではない。本当に驚いた。暮野は八神を頭の先から爪の先まで改めて見つめ直した。髪を切り、すっきりと輪郭を晒した八神の顔は小さく、余計瞳の大きさが際立つ。何と表現すればいいのだろう。その顔立ちは人をはっとさせる引力がある。艶やかさがある。内面は変わってないから陰気な猫背はそのままだが、身長は暮野より若干低く、中肉中背のバランスの取れた体躯をしている。髪の毛はふわっとした猫っ毛で、暮野が選んだ美容室が当たりだったのか、現在の八神のヘアースタイルは、お洒落な街を堂々と歩く今時の若い子に引けを取らないほどだ。否、むしろその上を行くセンスがある。そのせいで、さっきまでどうしようもないくらい野暮ったかった男が、もちろん完璧ではないが、徐々に魅力的な若い男へと変貌している。     
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