yagami 5

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 八神の滅多に聞けない大きな声に驚いたのか、近くにいた池田を含めた同僚達が一斉に八神を見た。八神は暮野にたった一日ぶりに会えただけで、こんなにもテンションが上がり、自然と笑顔が溢れてしまう自分に戸惑った。相変わらず神出鬼没な、浮き世離れした雰囲気は極めて個性的だが、暮野はいつものようにきらきらとした存在感を放っている。暮野とは、初めて食事をした時から読書好き本好きなのを共通点に、随分と親しくなった。それは、こんな八神に突如舞い降りた奇跡のような出来事だ。八神はそれを実感すると、喜びがまた込み上がり、一層笑顔が深まる。  暮野はそんな八神をじっと見つめ、僅かにはにかんだ表情をすると、それを隠すように八神の前に借りた本を無造作に差し出した。 「八神が進めてくれた本、超面白かったよ。このシリーズの新刊ってまだなの?」 「そうですか! 良かった。ええと、その本の新刊は来月発売される予定ですから、購入するリストに入ってるはずです。でも、もし入ってなくても、僕押しで絶対リストに入れます!」  自分の迂闊さに気づいた時には後の祭りだった。八神は興奮の余り、つい余計な事を口走ってしまった自分の間抜けさに、冷や汗が流れ始める。 「おい、八神君。随分そちらの方と仲がいいみたいだけど、公私混同してないか? 特定の利用者を特別扱いするのは職務上まずいだろう?」  案の定、池田がイライラしたようにカウンターを指で叩きながら、八神と暮野を交互に見つつ、嫌味ったらしくそう言った。 「す、すみませんっ。つい、僕の好きな本を面白いと言ってくれたので、嬉しくて、か、軽はずみなことを言ってしまい、すみません」  八神は池田を見つめ必死に謝った。ここは何事もなくスルーしてもらわないと非情に面倒だし、暮野にも申し訳ない。     
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