yagami 5

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 全く容赦のない暮野の言葉に、カウンター周辺の空気が一瞬で氷つく。八神は焦って暮野の腕を掴むと、「落ち着いてっ」と小声で囁いた。 「ん? ああ、あんましむかつくからつい。あ、そうだ。ちょっとあんたさ、今日の八神との晩飯は、俺との先約があるから無理だよ。悪いな」  池田は目を血走らせながら黙り込んだ。八神は自尊心を深く傷つけられた池田が、次にどんな陰湿な逆襲を暮野にではなく自分にして来るか。それを思うと背筋が凍り始める。池田は自分より強い者には刃向かわない。自分より弱い八神のような男をはけ口にし、醜い自尊心を取り戻そうとするのだから。  案の定池田は、まるで呪詛のような聞き取れない言葉を不気味に唱え始めると、突然八神に視線を向けた。その目はどんよりと濁り、光を失っている。「覚悟しとけよ」八神はそう言われているような気がして、慌てて池田から目を反らすと、暮野が心配そうに八神を見つめていた。 「ごめん。ついかっとなって」  暮野は八神に顔を近づけると、耳元に軽く囁いた。八神は耳に当たる暮野の息がくすぐったくて、思わず首を竦める。 「一緒に晩飯食うの楽しみにしてるよ。いつもみたいに、仕事終わるの外で待ってるから」 「わ、分かりました……」     
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