kureno 2

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 男に下の名を呼ばせたいと思ったのはいつ以来だろう。否、もしかして初めてだったりするのだろうか? 記憶がかなり曖昧だ。 「……來さん」 「そう。いい響きだな」  八神から発せられた「來」という響きに胸がじんわりと熱くなる。さっきとは違い、八神は頬を少し赤らませると、暮野と同じように飲み物に手を伸ばした。  本屋でガイドブックを手に取り、適当に洒落た店がないか調べ予約をしておいた。八神が勤務する図書館から歩いて十分ぐらいの所にあるスペイン料理の店だ。暮野の好きなワインの種類が豊富なのが、この店を選んだ理由でもある。運良く個室が空いていたので、暮野たちはテーブルを挟んで二脚置かれた、四人掛けサイズのソファーに向かい合って座っている。     
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