kureno 2

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 暮野の低い声に八神の表情が変わった。暮野は確信した。あの池田という男は八神を性的な意味で狙っている。絶対に。でも、八神はそんなこと露程も思ってないだろう。否、さすがにネガで初心な八神でも、自分に対し性的な目を向ける人間がいることに気づけるぐらいのセクシャリティを持っていて欲しい。そうでないと自分もやりにくい。 「絶対気を付けろ。そいつ、八神を狙ってるから」 「は? 來さんの言ってる意味が分かりません。ちゃんと分かるように説明してください」  無自覚ほど恐ろしいものはない。八神は酔っているせいか、少しだけ顔を前に突き出すと、耳を欹てるような仕草をした。 「こういう意味だよ」  暮野は八神の腕を引っ張ると、「こいよ」と言い、自分の隣に強引に座らせた。そして、八神の両肩を強く掴むと、ソファーに力を入れ押し倒す。 「ららら、來さん?!」  八神は顔を真っ赤にさせると、大きく目を見開きそう叫んだ。暮野はその目に引き込まれてしまい、思わず自分の顔をぐっと近づけた。八神の、怯えたように自分を見つめる瞳に口付けしたくなる。暮野はそんな欲望を無理矢理押し戻すと、八神の肩に更に力を加えた。 「ほら、あいつにこんなことされたらどうすんの? 警戒心持たないと駄目じゃん。気を付けろよ。マジで」  暮野はそう言うと、ぱっと八神の肩から手を離した。八神は魂が抜けたようにしばらく天井を見ていたが、がばっと跳ね起き暮野を無言で数秒間見つめると、「きょ、今日はこれで帰ります!」と、叫ぶように言い、カーテンにもたもたしながら個室を出て行った。     
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