yagami 1

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 彼の順番が来ると、彼は八神の前に借りる本を三冊と、返却する本一冊を置いた。ものすごく偶然なことに、彼が借りようとしている三冊とも八神がとても大好きな本だった。前々から、彼とは本の趣味が合うような気はしていたが、今まで、カウンター業務をかれこれ三年ぐらいしていても、さすがにトリプルで好きな本が被ったことなど一度もない。八神はその本に心を奪われ、思わず数秒間食い入るように見入ってしまった。 「あの……」 「へっ!」  八神は我に返ると、焦って奇妙な声を張り上げてしまった。 「この本を借りたいんだけど、大丈夫だよね?」  彼は八神の顔を心配そうに覗き込みながら、ゆっくりとそう言った。間近で見る彼は、男の八神でもうっとりしてしまうくらいの美しい顔をしている。それは毎回思うことだが、今日は何だか特に眩しく見えてしまう。 「え? あ、大丈夫です! すみません!」  八神はバーコードを当てるため慌てて本を手にしたが、本に覆っているビニルカバーが滑りやすいせいで、残りの二冊を床に落としてしまった。アワアワとする八神を余所に、彼はスマートに床に落ちた本を拾い上げると、「焦らないでいいよ」と八神に小声で囁く。しかし、彼の後ろの利用者が「早くしろよ」と舌打ちをしながら呟いたのが耳に入った瞬間、八神の体は情けないほど萎縮し、手が止まってしまった。 「あんたさ、この程度も待てねえの? 小せぇ男だな。そんなに苛つくなら別の列並べよ」     
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