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彼の美しい顔からは想像も付かないような迫力のある声に、八神は我が耳を疑った。彼は振り向きざまにそう言うと、後ろの利用者をもの凄い形相で睨みつける。睨まれた利用者はその迫力に圧倒され、恐怖に口元を震わせながらそそくさと彼から離れ別の列に並んだ。一番後ろだった男がいなくなり、彼が現時点での最後の利用者になった。
彼は八神に顔を戻すと、まるで何も無かったように涼しげな笑顔を八神に向けた。八神はその笑顔に魅了されながら、取り敢えず心を落ち着かせると、図書の貸し出し処理を進める。
「いつもご利用ありがとうございます。返却日は三週間後の火曜日です」
八神は返却日を記した紙を本に挟むと、彼に丁寧に手渡した。
「了解」
彼は低い声ではっきりとそう言うと、厚めの本三冊をすっと軽やかに受け取り、八神の前から姿を消した。
八神は一時的にカウンター業務から開放され、ほっと息を吐くと、彼が返却した本を返却ボックスへ入れようとした。その時、本の間に紙切れが挟まっていることに気づいた。返却日を記した紙がそのままになっているのかと思い、処分するため抜き取ると、その紙にはメッセージらしきメモが書かれている。
『八神優弥殿。あんたと俺は本の趣味が合いそうな気がする。ゆっくり話がしたい。今晩仕事が終わったら、一緒に食事でもしないか? あんたの仕事が終わる十九時に、図書館の裏口で待ってる 暮野』
「何、これ……」
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