yagami 2

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yagami 2

 仕事が終わるのを、こんなにドキドキしながら待ったことなど初めてかもしれない。八神はほぼ毎日、仕事が終わると、職場から二十分程離れた、父親と二人で暮らしているアパートに自転車でまっすぐ帰るだけの日々だからだ。途中にある小さなスーパーで食材を買い、簡単に調理しただけの夕食を二人でいつも食べる。母親も兄弟も友達もいない。一人で飲食店に入るのが苦手だから、外食など、職場の暑気払いや忘年会ぐらい。夕食後は風呂に入り、自分の勤めている図書館で借りた本を眠くなるまで黙々と読むというつまらない日課をひたすら続けている。そんな八神に突如舞い降りた、人から興味を持たれるという貴重な経験を、どのように受け入れたらいいかひどく戸惑っている。ましてや、老若男女の視線を一点に集めるような魅力的な彼が、こんな自分に本当に興味を持っているのか、長年人間不信の八神にはやはり俄かに信じがたい。でも、彼を信じたいという気持ちが自然と溢れてくるのは何故だろう? 自分でもうまく説明できないが、彼の特殊な雰囲気に安心感を覚えるからかもしれない。     
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