第4章 大樹との出会い

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安井金比羅宮には、夥しい程の数の白いお札に覆われた1つの大きな巨岩がひっそりと佇んでいた。あまりのおどろおどろしさに、思わず後ずさりしてしまうほどだ。 安井金比羅宮の絵馬を除くと「早く彼が奥さんと別れてくれますように」「あの女と彼が別れて私のものになってくれますように」といった怨念のような願いばかりを見つけてしまった。「ねえ、ここって本当に幸せを祈る所なの?」と、思わず恐怖で胸がいっぱいになって大樹に尋ねた。 「ここは幸せを祈るというより、悪縁を切る神社で有名なんだ。 悪縁ばかりお引き寄せてしまう人って、実は人の不幸を祈る人が多いんだ。本当は、悪縁を切る事で新しい一歩を踏み出さなきゃいけないんだけど、ここにこうやって絵馬を書く人は色々と間違ってるんだと思う」と、ボソッと呟いた。 思い起こせば、私は人の幸せを願う事なんてあっただろうか。人に幸せを祈れる時は自分が幸せで余裕があって初めてなんじゃないかって思ってた。 「千恵子のおかげで、結婚できたんだよ。千恵子があの時、コンパしてくれたから!」と、一体何度感謝された事だろうか。手当たり次第に男性を捕まえては「合コンして」とアタックし続けては幹事を繰り返し、私の隣では次から次へとカップルが誕生していった。 感謝されるのは嬉しいけど、私も人のお世話焼きばかりしてる場合じゃないし・・・。でも、私が幹事やらないと誰が幹事やるんだろう。みんな声をかけられるのを待つ女の子ばっかりだったから、結局私がキッカケを作るしかなかった。 「凄いよね。千恵子って、すっごい合コン行ってるイメージ!もう、コンパの女王だよね。」 いつからだろうか。呼ばれても大して嬉しくもない称号をつけられるようになったのは。 やがて、合コン先で友人が「千恵子って、見えないと思うけど凄く合コンの幹事してて、合コンクィーンって呼ばれているの。」と参加者男性に吹聴するようになり、私の婚期はますます遠のいていった。
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