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人は命がけの度胸を試す比喩に「清水の舞台から飛び降りる」と例える事が多い。しかし、いざ清水の舞台から景色を見るとあまりの美しさに飛び降りて周囲を汚す事が罪とすら感じた。美しい例え表現だとずっと思っていたが、軽々しく使えないと思った程だ。
「なんか、ここに来ると辛い事とか全て忘れてしまうんです。だから、いつも定期的に来てしまう。
実は、僕も千恵子さんと同じように安井金毘羅宮をくぐれないんです。絵馬にも「色々なものから逃れられますように」ってアバウトな事しか書けなくて、具体的な事を書く勇気がない。家庭の悩みなんて書いて、人に見られたらどうしようって思っちゃう。
よく「夫が病気で死ねばいい」みたいな恐ろしい事を絵馬に書いてど真ん中に飾ってる人とかもいるんだよ。ああいう人って、一体どんな神経してるんだろうって思っちゃう。
憎しみの願いなんて、勇気がないと書けないよ。幸せになる勇気も、ない人にはずっと来ないんだなって思った。
千恵子さんが潜らなかった時、ああ僕と同じタイプの人なんだろうなって思った。だから、きっと僕は君に自然と似たようなものを感じて声をかけてしまった。
僕は、見知らぬ人に声なんてかける度胸なんてないから・・・声をかける時は勇気がいったよ。
まさに、清水の舞台から飛び降りる気持ちだったよ。」
大樹は、私と同じ人種だった。私も本当なら、見知らぬ人に声をかけてもらえた所でついていけないタイプのはず。不思議な事に、大樹には何の抵抗感もなかった。
きっと、何か同じものを感じ取っていたからかもしれない。
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