駄犬は一途に恋をする。

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 三つのトレーを危なげなく両腕に携えたウィリアムがテーブルへと戻れば、案の定シルヴァンが口を開く。 「なにがあった?」 「ああ、いえ…ちょっと馬鹿にされていただけです…」  トレーを置きながら、ウィリアムは困ったように眉根を寄せた。 「木偶の坊が戻ってきたと…」  まったく以ってその通りだと、そう言ってぽりぽりと頭を掻いてみせるウィリアムを、シルヴァンが呆れたように見遣る。 「お前が木偶の坊だとしたら、この船のセキュリティースタッフの殆んどは木偶の坊にすら劣る」 「ふふっ、確かに。ウィリアムほど呑み込みの早い人間はそういないでしょうね」  シルヴァンとガブリエル、二人の口から褒めるような言葉が出てきて、ウィリアムは今度こそ照れたように頭を掻いた。 「あぁああの…そんな褒めても何も出ませんよ!?」 「別に構わん」 「キミのその慌てたような態度が、俺には充分楽しいから問題ないね」  口々にさらりと返されて、ウィリアムは項垂れた。   ◇   ◆   ◇  その日、『Queen of the Seas (クイーン・オブ・ザ・シーズ)』は横浜港へと予定通り入港していた。     
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