駄犬は一途に恋をする。

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 ウィリアムもまた、一応組織の末端に名を連ねるれっきとしたマフィアである。まあこちらは、少しばかり事情があってマフィアにならざるを得なかっただけではあったが。  屈強な男たちの多いスタッフの中でも、百九十センチの身長を誇るウィリアムは大きい部類だろう。それ故後ろの方の席で新統括の顔をあまり近くで見ることが出来ず、ウィリアムはその上半身を伸びあがらせた。  前に連なるスタッフたちの頭の間から必死で顔を見ようと大きな躰を動かすウィリアムが、シルヴァンの目に留まったのは言うまでもない事である。 「そこのお前、いったい何をしている。立て」  真っ直ぐ視線を向けられてシルヴァンに問われ、ウィリアムは急いで立ち上がった。シルヴァンの声が、凍てつくように冷たかったからだ。  勢いで直立したものの、シルヴァンの冷たい視線に射抜かれてウィリアムは顔を俯けた。躰も大きく力も強いウィリアムではあるが、如何せん気が弱いのである。 「あっ、いえ…あのっ、統括の姿がよく見えなくて…拝見しようと…すみませんでした…」  大きな躰をこれ以上ないほど委縮させて、ウィリアムは謝罪した。身寄りもなく、これといって手に職もないウィリアムは、フランスに帰ったところでロクな生活も出来ない。この船を降ろされたら行くあてもなくなってしまうのだ。     
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