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言った未波を、辻上は、少しだけ押し黙ってじっと見つめた。
そして、ボソリと言う。
「『さん』は要らない。俺も、呼び捨てにする」
たぶんこれは、かなり照れているのだろう。
表情までが、憮然として見える。
そんな彼に、未波は、またあの柔らかな空気を纏って欲しくなった。
「あの、もう一曲、聞かせてもらえませんか?」
彼女の頼みに、辻上の顔に、どこかホッとしたものが浮かんだ。
そして黙って頷いた彼が、ゆっくりとピアノに歩み寄る。
だから未波も、今度は一番ピアノに近い椅子へと移動した。
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