8 風邪ひきとクリスマス

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そんな風に、彼の弾くピアノの音の中にたゆたうように味わっている内に、 静かに曲は終わりを告げた。 そして、ゆっくりと未波へ体ごと向き直った辻上が、ポツリと言う。 「今のは、ショパンのワルツ8番」 しかし、これに何かを返す前に、突然、未波の腹の虫が小さく空腹を訴えた。 思えば今朝は、いささか落ち込んでいて、コーヒーすら飲む気にもなれなかった。 そして、慌てて腹を両腕で抱える未波の前で、辻上は腕時計に視線を落とす。 それから、やっぱり呟くように彼が言った。 飯、食いに行こう。
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