4136人が本棚に入れています
本棚に追加
子供の背丈ほどもある巨大な木の箱に、またも子供はびっくりして尻餅を着いたままポカンと口を開ける。
メリッサの薬箱は6才の誕生日にお父様に買ってもらったもので、行商をする薬問屋が使ったり、薬師が往診に向かうのに使っていたりするのと同じもの。
三層に別れていて一番下の引き出しには本や紙、ペンにインク壺、薬草を入れる小さな布袋や小さな陶器の瓶が入っている。
真ん中の一番大きな扉の中には調合に使う道具類が。
一番上には小さな引き出しが六つ。引き出しの中も細かく仕切られていて薬草類に包帯や清潔な布、作りおきの軟膏や丸薬等様々なものが入っている。
(良かった。どれも割れたりしてない)
使用人に突き飛ばされた際に派手に地面にぶつけたので道具や瓶が割れてしまったものがないかと心配していた。
確かめる気力も勇気もなくて見ないままにしていたけれど。
もともと様々な道具類をぎゅうぎゅうに詰め込んでいた上に家を出る前に入るだけの薬草や木の根、毒草の類いを隙間に詰めていたのでそれらが上手い具合に緩衝材の役割を果たしたのだろう。
メリッサはそれらの中から清潔な布に包帯、傷薬の軟膏、それと小指の先ほどの小さな青い石を取り出すとその石を両の手でぎゅっと握りしめ、子供の膝の上にかざした。
「蒼く澄んだ命の水。深き地脈のそのはるか奧に流れる尊き流れ。どうかこの手の中に僅かな恵みと祝福を」
小さく呟くとメリッサは手を開く。
その手の中には透明な水が溜まっていた。
サラサラと指の隙間をこぼれ、子供の膝にこびりついていた土や小石、血を洗い流していく。
ゆっくりと流れ落ちる水は、メリッサの細くけして大きくはない掌に収まりきれないはずの量で。
子供は痛みを忘れたようにただその不可思議で神秘的な光景を目に焼き付けていた。
最初のコメントを投稿しよう!