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「手も出して。しっかり土を洗い流してね」
メリッサが言うと、子供は手を出して言われた通りに土を洗い流した。
メリッサは布で子供の膝小僧と両の手を拭う。
と、傷が痛んだのだろう子供が「……ひっ!」とひきつった声を上げて逃げるように足を引こうとする。
髪と同じ色の両の目から、ボロボロと大粒の涙が溢れた。
さっ、とメリッサは左手で子供の足を掴み、右手で子供の鼻をむんずとつまんでこう言った。
「男の子でしょ!このくらいでベソベソ泣かない!!」
ぎゅううっと鼻をつまんだ指に力を込める。
子供は驚きすぎて一瞬涙が止まった。
ぱちぱちと涙に濡れた睫毛をしばたたせて、ついでコクコクと頷いてみせた。
「よっし。あなた名前は?」
「カシム」
「カシム。わたく……いえ私はメリッサよ」
ドヴァンと、字は名乗らなかった。
勘当されたメリッサにその名を名乗る資格はないし、平民は字をもたないから。
「カシムはこんなところで何をしていたの?」
お互い様な気もしたが、メリッサはそう問いかけつつテキパキとカシムの膝と手に薬を塗り込んで布を当て、包帯を巻いていく。
「少し手が熱いわね」
傷口からバイ菌が入ったのかも知れない。
そっとカシムの額に手をやると、やはり少し熱を持っていた。
「ええと」
薬箱の引き出しを開けて苔のような色味の丸薬を取り出す。
「少し苦いけど我慢して飲んでね。炎症を抑えて熱を冷ます薬なの」
カシムの手に丸薬を乗せると、傍らに置いていた布袋から水の入った水筒を取り出した。
「……さっきの水じゃないんだ?」
思わずといった風にカシムが呟くのに軽く微笑む。
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