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ある時、冬の季節に庭仕事をする庭師に手荒れに効く軟膏をマリエラを通じて渡した。
メリッサから直接ではちゃんと使ってもらえるか不安だったから。
今でもあの庭師はマリエラが町で買ってきたか取り寄せた薬であったと思っているだろう。
同じようなことはその後も何度となくあって。
そのたびに「お姉様はすごいわ。みんなお姉様を誤解しているけど私だけはお姉様の味方よ」そう言って笑ってくれた。
そのマリエラの笑顔にどれだけ救われたことか。
マリエラがいたから、マリエラの笑顔とメリッサを肯定してくれる言葉があったから、決して叶うことのない夢を、期限つきの我が儘を続けることができた。なのに。
「マリエラ様がお前を正式に訴えることを拒否されたのだ。自身が殺されそうになったというのにお優しいお嬢様はそれでもお前を庇いなさったんだ!そのマリエラ様を……!この魔女がっ!?」
ガツッ!と頭を強く蹴られて、メリッサは地面に転がったまま呻いた。
「このまま真っ直ぐに道を歩いていけば夕刻までには小さな村に着く。そこで薬師の真似事でもして暮らすんだな。……いいか、家に帰りたいなんて思うんじゃないぞ。王都にも近づかないことだ。使用人たちは皆マリエラ様をお慕いしている。お前の顔を見ると殺したくなるからな」
使用人は吐き捨てるように言うと、メリッサを乗せてきた馬車に乗り込みさっさときた道を戻っていった。
メリッサは小さくなっていく馬車の背を見送り、それが完全に見えなくなってから、ようやく立ち上がると服についた土を手で払った。
よろよろと力の入らない足で歩き、転がった布袋を拾う。
そのままメリッサは馬車とは反対側に向かってゆっくりと歩を進めた。
一刻ほども歩いただろうか、喉が渇いて少し休憩をしようか、と思い始めた頃。
メリッサの目に、道の端に座り込んで声を上げずに泣く子供の姿が写った。
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