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「それ、わざとやってるでしょ」
「んー? 何が?」
女はにこにこと愛想良く笑った。
「人の布団でごろごろするのやめてくれないかな」
「いいじゃん、どうせ使わないんだし」
私の枕を胸に抱き、私の布団に仰向けに寝転ぶ姿は、殺してやりたくなるくらい幸せそうだ。
「はあ……、で、どうだった?」
「どうって? めちゃくちゃ燃えたけど、詳細ってこと? うーん、いつもより最初からねちっこいなあとは」
「そんなこと聞いてないって!」
女はよっこらせ、とそのハリのある若々しい肌からは想像できない声と共に体を起こす。背中の真ん中あたりまで伸びた長い髪に目が引き寄せられる。カーテンの隙間から漏れる朝日に照らされてつややかに煌めく様は、例えようもなく美しかった。
「はいはい、本当に好きなんだねえ」
女は意地の悪い笑みを浮かべている。
「そんなに気になるなら、自分で会いにいけばいいじゃん」
「それが出来ないから聞いてるんでしょ」
「本当かなあ……じゃあなんであたしのとこには来るの?」
「こっちが聞きたいよ」
ふうん、と首を傾げる姿に、ふつふつと怒りが沸いてくる。そうだ、こんな女の顔など見たくもない。でも仕方がないのだ。私にはこの女に頼るしか、彼のことを知る方法がないのだから。
「せめて四十九日過ぎてからにして欲しかったな……」
「あはは、過ぎたらオッケーなの?」
「オッケーじゃありません」
「ですよねえ」
私が死んでから、今日でちょうど一ヶ月が過ぎた。スーパーで買い物をした帰り道、私は車に跳ねられた。彼とは来年の春に籍を入れることになっていた。猛スピードでトラックが突っ込んできた瞬間、走馬燈って本当にあるんだな、と思ったことを覚えている。
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