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「ほんと、よりによってなんであんたなんだろう……」
気づいたときにはここにいた。中途半端な高さから見下ろす景色は、二年前に越してきて以来過ごしてきた部屋のままだ。ただ、布団の上には見知らぬ若い女が寝転んでいて、彼の姿はどこにもなかった。
「こっちが聞きたいですー」
女は舌を出して顔を顰めた。初めて会ったときから、この女はずっとこの調子だった。聞けば、子供の頃からよく死んだ人の姿を見たり、話をしたりすることがあったのだという。ご親切にもカレンダーを指さして、私が死んでから一週間経ったところだと教えてくれた。
「で、どうだった? 元気そうだった?」
「もー、しつこいなあ、だから気になるなら自分で会いに行けって」
誠に不本意ながら、私がこうして意識を取り戻すのは、女がこの部屋に泊まった翌朝と決まっているようなのだった。それも、彼が出かけた直後に限られている。誰が決めたルールなのかさっぱり分からない。一体何が楽しくて、彼と寝たばかりの女とお喋りしなくてはならないのか。
「じゃ、あたしもう帰るね」
女は掛け布団を二つ折りにし、すんなり立ち上がった。
「えっ待ってせめて何かひとつくらい近況教えてよ!」
「いーやーでーすー」
こちらに背を向け、身支度を整え始める。もうまともに会話をする気もないらしい。ああ、まただ、また何も聞けなかった。黒いストッキングを引き上げる作業に集中する後ろ姿に、ぐるぐると澱む感情をいっそぶつけてやりたいと何度思ったことか。知りたいことは山ほどある。でも、それと同じくらい、知りたくないことも山ほどある。
「あーあ、いい加減気づけばいいのに……」
「え? 何か言った?」
「別にー」
女はドアに向かって歩いていく。何がおかしいのか、堪えきれないといった風に笑う女を、私は眺めることしか出来ない。既に声は出なかった。水の中に沈んでいくような感覚にも、すっかり慣れてしまった。
「お邪魔しましたー」
彼方に響く声も消え、硬く冷たい静寂が満ちた。
End.
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