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言いかけた所で理子が立ち止まり、抱えていた椅子を下ろす。場所は、もう部室棟の目の前まで来ている。
「それ、開けたいのか?」
理子は、部室棟の前で何やら段ボール箱を前に試行錯誤している女生徒に声をかける。印象からすると、女生徒は下級生だ。
「あ、ハイ。すごい、ガムテープでキツクぐるぐる巻にされちゃっていて」
言われたとおり、四方がガムテープでぐるぐる巻にされている大きめの段ボール箱が一つ。
今日は部室棟の整頓日なので、そこかしこに何らかの荷物を抱えている生徒達の姿が見える。何部かは分からないが、この女生徒もそんな中の一人だろう。そういう僕たちも、部室棟の整頓日に便乗してこうして荷物を運んでいる途中だ。
「私が開けてやる」
そう一言いい放って、理子は腰の後ろからいつもの炭素鋼のナイフを取り出すと、素早くガムテープが巻かれた部分を一閃して接合部分を分離してしまう。
後には、開かれた段ボール箱と、呆然とした表情の女生徒が一人。そして、何事も無かったようにナイフを鞘に収め、再び椅子を手に取る理子。
混乱してよく状況が理解できていない女生徒が助けを求めるかのような視線を僕に向けてくる。
「良く切れるペーパーナイフなんだ」
なので、フォローになっているのかなっていないのかよく分からない言葉を、ソファを両手に抱えたまま見下ろして女生徒にかけておく。だから理子、君のそのナイフの携帯は、一般的にはアウトな部類だというのをもう少し理解して欲しいなんて思う。
「着いたな」
僕の溜息をよそに、理子は辿り着いた部室棟の一階の「哲学研究会」のプレートが貼ってある扉の前に、椅子を下ろして腰に手をあてたポーズで立っている。
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