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「こちらは、彼氏さん?」
僕の方に向き直って、リューシさんが理子に尋ねる。僕からして初対面のリューシさんの素性が気になっているように、あちらも僕の方の素性に関心を持つのは当たり前だと思った。
その質問を前に、理子が一瞬僕に視線を送ってきたので、少しの間目を合わせる。こういう時は、どういう反応をすればいいんだろう。
「そうだな。彼氏というか、運命共同体みたいなヤツだ」
結局、リューシさんの問いに対して理子は僕と理子の関係をそう言葉で定義づけた。
「それは妬けるなぁ」
リューシさんはそう言って僕に向かって手を差し出してくる。
「甲剣竜志です」
僕も静かに手を握りかえす。
「島谷優希です」
握手をした瞬間、豆が潰れて固まって、またさらにそれが破けて固まってというのをくり返した、武術家の手だというのを密かに悟る。
これはたぶん、剣道家の手だ。
「島谷くん、理子ちゃんはこんなこと言ってるけどさ、勘違いして欲しくないのは、俺は進級するにあたって出席日数が足りないくらい遊び回ってるダメ人間ではないってことなんだ」
「はあ」と返事を返す。
「いや、なんか初対面の君に対して言い訳がましい俺も自分で微妙な感じなんだけど、その、ビジネスをやっててさ」
「ビジネスですか」
確かに、リューシさん改め竜志さんの服装は、如何に私服の学校である葉明学園とは言っても、スーツという随分と改まった格好だ。言われてみると、どちらかというと仕事帰りにちょっと寄ってみたという印象を受ける。
「あはは、在学中に始めたビジネスが学業よりも面白くなっちゃってさ。そっちにのめり込んでいくうちに気が付いたら三年生を三回目って訳」
竜志さんは目を細めたまま、人差し指を一本立てて、何やらレクチャーするような仕草を見せる。
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