第5話

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. 摘まみ上げた貝殻の、ざらついた感触を指に確かめながら、僕は考えていた。 つまり結論としてはこうだ。 人間の脳細胞というものは、活動を停止する間際にこそ最も活発に働くものであり、 それによってこれまで蓄積されてきた記憶や情報、潜在意識などが極めて鮮明に放出される。 今現在、僕が見ている海や船着き場の全てが、極限状態におかれた脳の過活動によって作り出された、要するところの幻なのだと。 グーグル先生に教わった極めて理知的な理論にたどり着き、メガネをクイッと指で上げた僕だったが…… 着ている服がパジャマなもんで、どうにも様にならなかった。 そもそも何故僕はこんな寝間着姿で、こんな海辺へ来てしまったのか。 そもそも僕に、身につける衣類を選択する権利などあったのか? そして、マジのガチでここはどこなのか? 教えてっ、グーグル先生っ! 祈るような気持ちでスマホを取り出したけど、やっぱりここでも圏外の表示。 唯一の頼れる味方に見放された僕は、ため息をついて貝殻を海に放り投げた。 空も海も、視野の全部がどこまでも青い。そこに沸き立つ白い入道雲なんて、ゲームのグラフィックでしか見たことがない気がする。 そんな僕でも、グーグル先生に聞かなくても、なんとなく解ってることはあった。 医者は下手くそな希望的観測ばかり並べてごまかしてたけど、自分の体がそう長く持たないことは、自分が一番良く知っていた。 嗚咽が続く人工呼吸器の息苦しさの中で、そろそろかもな、という自覚もあった。 ここが脳のもたらした幻なのか、死後の世界なのか、あるいは異世界へと転生する序章なのかは知らないけれど、 とりあえず僕は、死んだらしい。 齢(よわい)17年。 高校も卒業できず、社会も経験できず、1回無料の10連ガチャイベントにも間に合わず、女の子のおっぱいも揉むことができず…… なんて、呆気ない人生だったんだろう…… 好きなアニメキャラがそうしたように、僕もこの状況を、あえて余裕で笑ってみた。 「ふっ……後は任せたぜ」 って、ちょっと気取って片手を上げてみた。 上空を飛ぶカモメの声が、 「でもお前パジャマだし」 って、ギャーギャー笑って聞こえてた。 本格的に肩を落とした僕の前髪を、磯臭い風がちょっかい出しながら通りぬけていく。 .
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