66人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
.
とっくの昔に覚悟はしていたはずだったんだ。
学校へもろくに行けない自分が、人並みの人生を歩めないことはわかっていたし、医者の励ましが嘘っぱちだってことも知ってたつもり。
でも、いざそうなった時の、この落胆ぶりはなんだろう。
やっぱり、心のどこかではまだ生きていたかったから、あんなラクダみたいな医者の嘘っぱちに、ちょっとは期待していたのかもしれない。
見舞いに来た西田に、死ぬ心の準備を平然と語って見せた裏で、ネットでは眉唾物のスピリチュアルなんかを検索しまくってたし。
“願えば叶う”
“感謝が奇跡を呼ぶ”
“引き寄せの法則”
霊界=脳の幻説も、ぶっちゃけその時ついでに拾った知識だった。
目に見えない想いの世界に賭けるくらいしか、最後の可能性はなかったから……
……でも。
グーグル先生、あんた、最後に僕に嘘っぱち教えたね?
とてつもなく清々しくて、絵に描いた青春みたいな夏景色が、僕をますます独りに取り残していく。
早く船に乗って、とっととあっちへ行ってしまいたいけど、いつまでたってもやって来るのは波ばかり。
僕は横目で、ずっと気になってた建物をチラリと見た。
【レストラン きゆう】と書いてある、青い屋根の白い建物だ。
こんな所で突っ立っているよりも、座れる場所で落ち着きたい気持ちは当然ある。
でも……あれだ。
見た目とか格好とかめっちゃ意識する年頃の僕が、さすがにパジャマでレストランは無いだろう。
そんな奴はYouTuberでも見たことない。
諦めかけて海に向きなおるが、しばらくすると、またチラッ。
いやいや、有り得ないから!
って、言ったそばから、またチラッ。
そのチラッと見た目が、とうとう建物から離れなくなった時、僕はゴクリと唾を呑み込んでいた。
考えてみろ。
僕は死んだんだ。今さらカッコつける必要なんて何もないじゃないか。
こんな夢だか幻だかわからない世界なんだから、夢でも見てると思って気楽に行こう。
うん、そうだ。
こんなクソ田舎のレストランなんて、たいてい干からびたウンコみたいな顔したオッサンが、ニコチン撒き散らしながら細々とやってるもんじゃないか。
“よしっ!”
僕はフンとひとつ鼻息を吹くと、意を決してそのレストランへ歩きだしたのだった。
.
最初のコメントを投稿しよう!