第5話

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. とっくの昔に覚悟はしていたはずだったんだ。 学校へもろくに行けない自分が、人並みの人生を歩めないことはわかっていたし、医者の励ましが嘘っぱちだってことも知ってたつもり。 でも、いざそうなった時の、この落胆ぶりはなんだろう。 やっぱり、心のどこかではまだ生きていたかったから、あんなラクダみたいな医者の嘘っぱちに、ちょっとは期待していたのかもしれない。 見舞いに来た西田に、死ぬ心の準備を平然と語って見せた裏で、ネットでは眉唾物のスピリチュアルなんかを検索しまくってたし。 “願えば叶う” “感謝が奇跡を呼ぶ” “引き寄せの法則” 霊界=脳の幻説も、ぶっちゃけその時ついでに拾った知識だった。 目に見えない想いの世界に賭けるくらいしか、最後の可能性はなかったから…… ……でも。 グーグル先生、あんた、最後に僕に嘘っぱち教えたね? とてつもなく清々しくて、絵に描いた青春みたいな夏景色が、僕をますます独りに取り残していく。 早く船に乗って、とっととあっちへ行ってしまいたいけど、いつまでたってもやって来るのは波ばかり。 僕は横目で、ずっと気になってた建物をチラリと見た。 【レストラン きゆう】と書いてある、青い屋根の白い建物だ。 こんな所で突っ立っているよりも、座れる場所で落ち着きたい気持ちは当然ある。 でも……あれだ。 見た目とか格好とかめっちゃ意識する年頃の僕が、さすがにパジャマでレストランは無いだろう。 そんな奴はYouTuberでも見たことない。 諦めかけて海に向きなおるが、しばらくすると、またチラッ。 いやいや、有り得ないから! って、言ったそばから、またチラッ。 そのチラッと見た目が、とうとう建物から離れなくなった時、僕はゴクリと唾を呑み込んでいた。 考えてみろ。 僕は死んだんだ。今さらカッコつける必要なんて何もないじゃないか。 こんな夢だか幻だかわからない世界なんだから、夢でも見てると思って気楽に行こう。 うん、そうだ。 こんなクソ田舎のレストランなんて、たいてい干からびたウンコみたいな顔したオッサンが、ニコチン撒き散らしながら細々とやってるもんじゃないか。 “よしっ!” 僕はフンとひとつ鼻息を吹くと、意を決してそのレストランへ歩きだしたのだった。 .
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