お前が鳥になれ

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お前が鳥になれ

「僕は、」と可為武は我知らず、自分から言葉を口にするのを見送った。 「知りません、」  彼と養父の弥兵衛との間に、小屋の窓から斜めに差し込んだ光が落ちた。 「そうか、」  と言って、弥兵衛は柿色をした自分の頬に手を当てた。彼が困って思案に耽る時の癖だった。この間、可為武は視線さえ向けられていなかった。  たった二秒の間、沈黙が来た。  それだけの静けさが、小屋のうちに充満する圧迫に可為武は耐えられなかった。可為武は、後に彼を歴史的に有名にした一言を、我知らず口にした。 「なぜ僕が知っているんです――僕は、永遠にあいつの番人なのですか」  その言葉は彼自身、決して思案の末に吐いたものではなかった。  彼はこの時、自分がその後永遠に弟の魂の番人になろうことまでは、まだ想像していなかった。  阿比留、というのが可為武の弟の名前だった。漢字は彼らの養父である弥兵衛が、その後彼らを記録するにあたってつけたもので、彼ら同士の間では「かいん」「あびる」という音で呼び合っていた。  彼らは可為武が七歳、阿比留が三歳の時に、親を失って動物と同じ暮らしをしているところを拾われた。     
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