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ある時、可為武はふとした胸騒ぎに駆られて、阿比留を残していた木の元へと走った。彼が赤ん坊のような弟をひどく心配することは、仲間内で彼の愛嬌として受け取られていたから、「また阿比留の番をしに行った」と言い合い、彼らは可為武の脱走を許した。
可為武はその痕跡を見て、阿比留が成長したことを知って舌打ちした。「くそっ」と彼は我知らず、罵り言葉をその木に向かって浴びせた。
阿比留は縄をしゃぶりしゃぶり弱らせ、歯で噛みちぎって脱走していた。よく目を凝らすと雨上がりの赤土の上に、彼がつい弱らせた乳歯の一つが零れ落ちていた。
可為武は草深い野のなかで、ようやく阿比留の背中を見つけた。小柄な彼の姿は草に隠れ、ろうじて背中の一部が見える程度だったが、可為武にはすぐ見分けがついた。
「阿比留、」
と彼は叫んだが、阿比留はよくあることで――白熱した集中のなかにいて振り向きもしなかった。何かしゃぶるものを見つけたのかと思いつつ可為武が近づくと、阿比留は猛然と走り出した。
可為武は自分から逃げ出したのかと思ったが、違った。阿比留は助走の勢いそのままに身体をしならせると、見事な弧を描いて空に向けて石を投げた。それはきらりと太陽の光線を浴び、飛んでいた雀の胴にぶつかった。チッという短い悲鳴の後で、雀の体は石の影のように音もなく落ちた。
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