お前が鳥になれ

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 可為武は、その時小石によって空中に描かれた弧が、阿比留の思考の軌跡であることを感じ、その線の美しさに惚れ惚れして言葉を失った。それは可為武の停滞しがちな思考と違い、 一切の停滞なしに目的に到達する眩しい反射に見えた。  それは可為武の知っている阿比留ではなかった。弟はもっと曖昧模糊とした乳色の幻のなかで暮らしているはずだった。どうやら可為武が友達を得、田に浸かっている間、遊ぶ相手を失った彼を訪れるのは鳥の影だけであったらしく、彼はそれを獲得する方法を思案し、練習していたようだった。  時折、彼自身は脱走していないのに、彼の腰紐を結んだ幹に傷がついていることがあった。彼は束縛されていては自分の想像する運動がしきれないことを多少の試みの後で感じ、果たして自分を解き放ち、また狙いをつけた獲物を獲得することに成功したらしかった。  こんな見事な行動の成果は、田のなかで友達と戯れている可為武自身、まだ収穫したことがないものだった。 「阿比留、」  可為武は自分が悲鳴とも歓声ともつかない声で、弟を呼ぶのを聴いた。そして草のなかで弟に追いついて見ると、阿比留は血だらけの手で、まだ息のある雀の羽根を毟っているところだった。阿比留が振り向いた時、その眼にはそれを殺すことに罪があることに対する淡い理解の影が浮かんでいた。彼は咄嗟に、兄に向かってその獲物を隠そうとさえした。     
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