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この頃は可為武が暴力を振るうことを恐れてか、阿比留は何やら餌めいたものがないと容易く兄の身体に近寄らなかった。なお躊躇している彼に向かって、可為武は鉄製の尖った矢じりをちらちらと振って見せた。
――半年後、阿比留は袖を引き、兄に見せる準備が出来たことを告げて来た。可為武は「阿比留を遊ばせてきます」と弥兵衛に正面から断って小屋を出た。別に嘘をついているわけではなかった。ただ何をするのか言わなかっただけで。
てっきり、可為武は阿比留がその石を直接投げるものだと思っていた。しかし、阿比留は兄に少し離れた所にいるように言い、また実際に行動に移るより前に、何度か兄のいる位置を確認する素振りさえした。やがて彼は風を読む体勢に入った。それから草のなかからおもむろに、彼が動物の骨と皮を組んで編み上げた鳥の骨のような道具を取り出した。そして矢じりを弦に引っ掛けると、彼の思考が形を取って筋肉の影となり、たちまち彼の背に反映された。一瞬ののち、空気が彼の描いた弧によって裂けた。土の上に獲物の落ちた音が淡く上がった。
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