お前が鳥になれ

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 直後、阿比留はけたたましい歓声を上げた。それは既に短い歌のような一定の調子すら持っていた。彼は可為武に見せる前、何度もその練習をして成功するうちに、獲物を仕留める快感をこうして身体から放出することまでを習慣に入れてしまったらしかった。辺りにびょうびょうと響く阿比留の歌を聴きながら、可為武は唇を噛み、己の弟に対する試みが破れたことを仕方なく認めた。  小屋の裏から夥しく出た動物の骨を見て、彼は弥兵衛に言うことも出来ず、どうせ殺すことを取り上げられないのなら、せめて殺す手段を人間らしく仕立てようとしたのだった。しかし、せっかく人間の思考の現れのように見えた阿比留の狩猟も、その運動をより強力にする道具を与えたことで、獲物を捕らえる快楽を増幅させただけになった。獲物を仕留めるまでの彼の思考は、慣れるうちに身体を貫くただの一本の運動になり、己が考えた手立てで獲物を得たことへの理解は、その死体を解体する歓びに蕩けてしまうらしかった。彼の歌には何の言葉も含まれていなかったが、彼の身体のなかで起こっている一切の現象を説明するような節があった。 「阿比留、もういい、戻って来い、戻って」  懇願するように制止した声も、風とともに吹きすさぶ阿比留の歌声の前にかき消された。
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