お前が鳥になれ

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 可為武は音を立てて戸を開けた。それも途中で抵抗にあって引っ掛かった。彼は薄い皿に入れた灰を吹き飛ばさないように注意しつつ下ろし、全身の力を入れてようやく戸を引き切った。 「弥兵衛さま、」  彼は戸を開けるのに手間取ったことを悔やみつつ叫んだ。少しのろまなことをしているうちに、老人が死んでしまうことを彼は恐れた。  弥兵衛が病の床についてから、既に五日が過ぎていた。熱は一向に引かず、老人の身体は汗を余り発することなくただ加熱していくようだった。彼のしわぶきは衰弱が増すほどに、彼の土塊のような身体を少しずつ崩すかのようだった。  瀬人が相変わらず白い顔で看護していたが、三日を過ぎた時に可為武に対し、弥兵衛の薬とするため、彼の指示する草を取ってきて焼くことを命じた。彼自身が行かない理由として、一瞬でも彼が側を離れれば老人の命が保証できないということを言った。可為武に対する最後の念押しは、ただの目配せの形になった。可為武はその瞬間、自分の瀬人に対する信頼の大きさを感じ、またその瀬人に言葉を使わずに指示されることに眩いような陶酔を感じた。     
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