お前が鳥になれ

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「弥兵衛さま、」  彼は縋るように、また任務を果たしたことに対する多少の満足の歓びを持って、小屋に飛び込むとすぐにその名前を呼んだ。  可為武が最初に突き当たったのは、振り返った阿比留の目だった。薄暗い小屋のなかでそれは空気よりも濃い闇を宿しているだけのようだったが、どこか怒りを含んで閉ざした唇のように見えた。 「戻ったか」という瀬人の声にも、既に微かな失望の色が滲んでいた。「ご苦労だった――思ったよりは遅かったようだが」  瀬人の口調の終わりには、どこか仄かな明るさがあった。一瞬、可為武の胸に過った破局の予感はそれによって拭われ、どうやら弥兵衛は助かる見込みがついたものだと分かった。しかし、弥兵衛の身体は相変わらず床に横たえられたままだった。可為武はふと、床に座っている阿比留の隣に、何か黒い物が蠢いているのを見つけた。  それは、半身を既に毟られた烏だった。羽根が黒いせいで、小屋に満ちている薄闇のなかですぐに分かりかねたが、それは確かに血を流している烏だった。また半分ほどの肉を毟られてなお、完璧に絶命させられていないために痙攣的に足が震えた。その足は一本しかなかった。     
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