お前が鳥になれ

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 時折、弥兵衛と入れ違いに、瀬人という青年が来ることもあった。彼は髪を油で撫でつけていていつも身なりが清潔だった。また彼は、子供の給仕と監視に来るだけのようで、来ても別に口も利かず、弥兵衛とは違う座に座ったままで動かない。  初め、可為武は瀬人もまた兄か姉か、何かしら自分たちの家族に相当するのかと想像したが、彼の弥兵衛に対する言葉遣いや物腰から、どうやら「家族」の他に「使用人」という立場があるらしいということを理解した。他方、村の他の子供の家で、「使用人」がいるような家族は見当たらず、やはり弥兵衛は他の村人と違うのだと思った。  また瀬人は、初めから「家族」用に出来てない人間に見えた。彼の洗練された物腰や独特の言葉遣いは、いわば桑や鋤のような、何かしらの目的に特化して作られた道具を思わせた。また彼はいつも、短い期間しか小屋に滞在せず、弥兵衛が戻るとまた発ってしまう辺り、鳥のように空中に滞在する飛翔を主な生活にしている人種に見えた。  ただ、可為武は瀬人を知っていても、瀬人が属しているものについてよく知らなかったから、己がこの青年に感じる違和感についても「弥兵衛のように、他の村人とは違う」としか考えられなかった。「どうも生活をしないせいであるらしい」というところまでは思い至ったものの、それを他人に言うことはしなかったし出来なかった。     
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