お前が鳥になれ

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 他の子供と遊ぼうとして弾かれた可為武と違い、阿比留は初めから人間に関心を示さなかった。初め、可為武は阿比留が幼過ぎるせいだと思っていたが、六歳になっても彼は殆ど人間の言葉を話さず、また動物の方を己の仲間と思っているのか、可為武が目を離すと山に入ったまま、行方が分からなくなることもあった。  ある時、可為武が山中でようやく彼を探し当てると、雌の山犬に他の子犬と共に抱かれていたことがあった。彼が寝返りをうちつつ、当たり前のように山犬の乳に吸い付いていたことを、可為武は恐れて弥兵衛には告げなかった。 「いいか、少しは人らしゅうしなければ、」  あの家に置いてもらえんのだ――と可為武は人目のない所にわざわざ弟を誘い、その肩を揺さぶりながら言った。風の音や草がなびく音も、この時可為武には邪魔に思われた。多少の暴力を伴わないと、彼が本気で喋っていることすらこの弟には浸透しないのだった。 「分かったか――分かったら」  ふと兄を見上げた阿比留の目には、全く理解の芯が見当たらなかった。  可為武は次第に、弟が人間全体に――つまり自分にも興味を失っていくのを、日暮れのように仕方なく、また取り返しのつかない現象として悲しく見送った。 (何とかしなくちゃいけない――)     
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