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反応のない時、可為武はつい弟の頬を掴んで揺さぶるようなことをした。まるで無反応の弟の首は手に従ってぐらぐらと揺れた。また時折、頬のなかに硬い手触りがあるのが感じられ、可為武が見咎めて吐き出させると、それは木の実の殻であったり、あるいはただの小石であったりした。
吐き出された物を見ると、可為武はどんな言葉で言っても、阿比留の無理解を破砕することは出来ないように感じた。
要するに、阿比留は無目的に放浪しているわけでなく、確かな舌触りを求めて煩悶している最中らしかった。早くに母親を失った彼は乳離れが出来ず、何でもよく口に入れてしゃぶる癖があったが、弥兵衛の影のないような小屋、また可為武の鋭い叱責からはそんな乳は得られず、泥のついた石や山犬の乳房だけが彼の求める感触を与えうるということらしかった。
(僕が女であれば――)
彼は山犬の雌に嫉妬して、そんなことすら思った。
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