第一幕 出会いの春は輝きの中に

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 帰りたい。梶直行は登校初日にして十分も経たず、すでに鬱々としていた。あらかじめ通知されていた教室に向かい、電光黒板に表示された座席表を確認して着席してからというもの、微動だにできずにいた。教室では、中等部からの持ち上がり組が親しげに会話を交わしているのがほとんどで、直行のように一人ぽつんと着席しているものは稀だ。こんなときは、すでに盛り上がっている会話にがんばって溶け込むか、一人でいる生徒に積極的に話しかけて、新しい仲間作りに励むのがセオリーだが、いかんせん、気後れしている。入学式開始までの時間を持て余し、机に備え付けのモニターを起動させ、入学案内のページを読んで時間を潰していたが、気ばかり焦る。入学式まであと何分か確認しようとスマホを見ると、生活情報支援型AIから通知が来ていた。スマホのセンサーを机上のモニターに向け確認ボタンを押すと、フェアリーが転送され、モニターにアバターが表示される。執事の格好をした猫型のアバターから吹き出しが出て、言葉を紡ぐ。 “直行、少し顔色が悪いです”  モニターに付属したカメラに映った直行の顔色を認識し、フェアリーが両の掌をこちらに向けて、落ち着けのポーズを取っている。直行は入力キーを立ち上げ、少し周囲に目配せしてから手早く入力した。 「そりゃ、顔色くらい悪くなるよ。教室内のレベルがここまで高いなんて聞いてない」 “レベルが高い、とはどういう意味ですか?”  フェアリーが腕組みをして小首を傾げる。直行は言い聞かせるようにゆっくりと入力した。 「顔面偏差値が高いってこと」 “整ったもの、美しいものを見るのは心の健康に良いことです。説明が不十分です”  モニターのフェアリーは小首を傾げたままだ。直行は溜息を吐いた。
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