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「そうじゃ。その志さえあれば、わしらの選択に誤りはない」
熊倉君は、そんなサイバラ外科部長の言葉に不服なのか、やれやれと頭を振った。
「お説は最もですが……彼は永遠にこの病院で生きるしかない。しかも、この病室でね」
「おかわいそうですね」
その可憐な声に振り返ると、新米ナースの不知火李が目を潤ませて立っている。
今日は千客万来……だわね。
「おお、不知火君。君が泣くことないじゃないか」
「でも……。あんまりです」
「君は彼に同情してしまったのかな?それとも、本当に彼のことを……」
「か、からかわないで下さいまし!!」
「まあ、君が彼に惹かれる気持ちはわからないでもないよ。
彼はあらゆるものを失って、まるで『幸福の王子』だ。彼に残されたのは、あの美貌だけ。
あの瞳に見つめられたら、僕も妙な気持ちになってくる」
「やだ、やめてよ。熊倉君。男同士で」
「そう思っているのは、他ならぬ君なんじゃないのかい?未央君」
「え?」
「僕はちょっと君の気持ちを代弁してみただけだよ」
「熊倉君……」
「さあて、僕は行こうかな。今、患者は来客中なんだろう?邪魔しちゃ悪いからね」
そう軽く笑うと、熊倉君は白衣を翻した。
あたしは思わず、606号室に目をやっていた。
彼は永遠に……ここの住人。
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