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「…何してんだ、オマエは。俺んちは、一本手前の道だぞ」
コンビニの袋を下げた青見が呆れた顔で、顎をしゃくった。生返事を返しながら、洸野は顔を擦った。考えていた事が事だけに、顔に出た照れ臭さを隠したかった。
青見の後をついて、小道に入る。壁の色だけが新しいアパートが見えてきた。五階建だ。
レンタルできる暗室が側にあり、駐車場付きで、機材を運べるエレベーターがついている。
それが青見の部屋を選ぶ基準だったそうだ。最上階にあった部屋自体は、洸野の部屋より若干広い程度で、造りも大差なかった。
洸野の部屋と散らかりようも一緒で、足元に専門書が積み上がっている。それでも、ゴミはゴミ箱にちゃんと入っているし、それなりに掃除はしてあるようだ。座る場所も確保してある。
自分の部屋と近い様子に、洸野はくすりと笑って、ソファに座った。
「雑誌の売れ行きはどうなんだ?」
コンビニの袋を対面で漁りながら、青見が笑顔で尋ねる。
「すごくいいよ。先月の売り上げはもう抜いた。来月号の企画に取り掛かってるところだよ」
ペットボトルから注がれたお茶を受け取り、洸野は喉を潤す。喉を下りていくお茶の温みが身体を緩ませる。
「青見さんこそ、仕事、片付いたの? …サインしに、家族に会いに行ったの?」
窺うように見ながら、洸野はそっと尋ねた。
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