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「いつ行くの?」
「来週末。本当に、待ってるみたいだった。親父に礼を言われたよ」
戸惑いを滲ませながらも青見は嬉しそうだ。洸野もにっこりと笑って、青見に差し出した手を広げた。その手には、雑誌のプレゼントになった、あの雪の結晶のネックレスが乗っている。
「監修者特典で、青見さんにあげるから。これも、持って行ってあげなよ」
青見はしげしげとそれを見て、自分の手に取る。
「…ありがとう」
青見が微笑む。いつもは尊大な男に素直になられて、却って洸野の方が照れた。誤魔化すように口をひん曲げ、そっぽを向いた。その目に、窓の外が見えた。
「…雪だ」
呟いた洸野に、青見も振り向いて窓の外を見る。立ち上がって、窓を開け放つ。寒風が部屋に吹き込むのも構わず、空を振り仰ぐ。
洸野はもう慣れたもので、素早く上着を着こんで、青見の後ろに立った。
「積もるかな?」
「積もりはしねえな。でも、雪が見られると、やっぱりいいな」
青見は窓際の引き出しから、ルーペと黒いビロードの布、筆を取り出した。ビロードに雪を受け止め、筆でそっと雪を払う。ルーペで覗いて、零れるような笑みを浮かべた。
「…珍しいな。牡丹雪じゃねえから、もしかして、と思ったけど」
青見に差し出され、洸野もルーペを覗く。そこには、雪の結晶が煌めいていた。角柱で、しっかりとした形だ。固まりとなって落ちる牡丹雪が多い都会では、結晶を見る事は難しい。けれど今日の雪は、粉雪だ。鹿角で見られたような美しい形ではないけれど、確かな結晶を見ることができた。
微笑んで顔を上げると、青見の目とかち合う。青見も微笑んでいて、同じような感慨を持っていると知れた。
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