最悪の出会い

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 言い様に腹が立った。絶対に渡すもんか、という気持ちが生まれていた。もちろん、もう終点まで誰も乗ってこないという情報は、隠匿することに決めた。 ふんぞり返るように席に居座る洸野を見て、青見の眉間の皺が深くなる。膨れ上がった野性のドーベルマンのように、唸った。 「…いい態度じゃないか」  地を這う低い声に、洸野の背筋がひやりと冷える。そ知らぬふりで、洸野は頬杖をついた。鞄から文庫本を取り出し、広げてみせる。文字など頭に入らないが、読んでいるふりをした。  青見の大きな手が本を掴んだ。洸野から本を奪い、通路へ放り捨てる。 「何すんだよ!?」  眉を逆立てながら、洸野が振り向く。飴をぽいと口に入れる青見の横顔が見えた。青見は無言で、飴を右頬から左頬に移した。  飴が三往復したところで、洸野が青見の頬を両手で強く挟んだ。ぶっ、と青見が飴を吹き出す。飴は弧を描いて、青見のジーンズにベッタリと貼りついた。  洸野を睨み下ろして、青見がティッシュで飴を取り、拭う。 「…クリーニング代は出すんだろうな?」 「そのジーンズに?」  わざと呆れ返った声を作り、洸野は肩を竦めた。  不穏な空気が漂う。睨みあう洸野と青見に、周囲の視線が集まる。  緊迫した空気を、バイブ音が割った。洸野がスマートフォンを取り出すと、青見も取り出す。  日世子からのLINEだった。帰省できなくなった、という内容に、洸野は呻いた。  彼女が帰省しないなら、意味がない。高速バスに二時間揺られて雪深い実家に帰ったところで、こき使われるだけだ。  プロポーズのために張っていた気が抜ける。肩透かしを食ったような気分だった。
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