最悪の出会い

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「おいっ、俺が先だって言ってるだろっ」  慌てた洸野は、青見の髪を引っ張って止めた。痛みに声をあげた青見が、洸野を睨み下ろす。 「あのー、お二人同室でいいっすか? 夜も遅いんで、揉め事困るんですよ」  緊迫した二人の間に、間延びした従業員の声が割り込む。欠伸を隠そうともしない。 ちらりとお互いを見て、洸野が頷くと、むっつりと黙って青見も頷いた。案内する従業員の後に続く。  部屋はシングルだ。ベッドと通路を挟んで、テレビと電話、メモ用紙や洗面具が置いてある。ゲスト用のベッドを運んできた従業員が、狭い通路にそれを押し込んだ。 「あ、これ。なんか言われても困るんで」  胸ポケットに挟んでいた一万円を青見に返し、従業員はさっさと出て行った。  青見が当然のように広いベッドに荷物を置く。バスタオルを持ってユニットバスに入って行った。  それを見送って、洸野は溜め息をついた。いいかげん、疲れ果てていた。ベッドの広さを巡って争う気にはならない。  十分程で出てきた青見と交替し、風呂に入る。シャワーの温みに、身体からどっと疲れが抜け出てゆく。一人になれたことにも、安堵の溜め息が出る。 日世子は今頃どうしているだろうか。東京に戻ったら、どんなシチュエーションで話を切り出そうか。  そんな事も、やっとゆっくり考えられた。  長めのシャワーを終え、ほどよく温まって浴室を出た洸野は、小さく悲鳴をあげて風呂に飛び戻った。  部屋は極寒だった。バスタオルをぴったりと巻きつけてから、そろそろと首だけ出してみる。再びダウンジャケットを着た青見が、窓を全開にしていた。降り始めた雪が、部屋に吹き込んでいる。
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