最悪の出会い

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「何してんだよ!」  怒鳴った洸野を無視して、青見は窓の雪を手袋越しに受けている。広い背に隠れてよく見えないが、じっと手の中を覗きこんでいる。  窓に寄せられた洸野のベッドには、着々と雪の染みが出来ている。その中に潜り込むことを考え、洸野の寒気は増した。 「閉めろ!」  無言を続ける背に舌打ちをして、洸野は最速で窓まで駆け寄った。青見を押し退け、しっかりと窓を閉じる。 「何をする!」 「こっちのセリフだ! 部屋で凍え死んだらどうすんだ!」 「そんな間抜けはオマエぐらいだろっ」  吐き捨てて、青見は手に持っていたルーペを投げ出す。何かを覗いていたらしいが、濡れた手は何も持っていない。素っ裸で冷たい窓から後ずさる洸野をじろじろと眺めた。 「そんな貧弱な身体で、女が抱けるのか?」  ふん、と鼻でせせら笑われて、かちんとくる。確かに洸野は細身だ。腰の細さなど女性に羨まれるくらいだが、モテないわけではない。洸野は無言でスマートフォンを取り出すと、画像を呼び出した。 「婚約者だ」  まだプロポーズをしていないが、見栄を張って宣言した。日世子は肉感的な女性だ。寄り添って写る画像には、童貞説を否定する力があるだろう。  青見は画像を見て、瞠目した。  失礼な話だ。  鼻から息を吐いて、洸野は目を眇めた。その手からひったくるようにして、青見がスマートフォンを奪う。 「ちょ…っ、返せよ」  片手に洸野のスマートフォンを握ったまま、青見が自分のスマートフォンを操作する。 「俺の女だ」  突きつけられた画像に、今度は洸野が目を見開いた。掴み上げて、まじまじと見た。  日世子が写っている。去年のクリスマスに買ってあげたネックレスを身につけている。隣に半裸でいるのは、目の前の男だ。
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