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「なんで…」
絶句する洸野に、青見が軽く息を吐き出す。
「日世子が取った座席にオマエが座ったから、おかしいとは思ったんだ。オマエも俺も、アイツにまとめて捨てられたんだろう。別れ話が面倒だったんだな。俺を振るなんてありえない女だが、ありえる女でもあったからな」
不機嫌に告げて、青見がベッドにごろりと横たわる。放り投げていたルーペを拾い、鞄のポケットに差し込んだ。
ショックのあまり、洸野は口が利けない。
「俺は半年の付き合いだが、そっちはどれくらいだ? …おい、口が開いたままだぞ」
青見に唇をつつかれ、洸野は我に返った。その手を振り払う。
「こっちは三年も付き合ったんだっ。アンタとは浮気だ浮気」
「浮気ならいいのか」
まくし立てた洸野を呆れかえった目で見て、青見が尋ねる。ぐっと洸野が詰まる。
結婚を考えた相手に隠れて浮気をされたこともショックだが、その相手とまとめて捨てられ、別れ話もされなかったことが一番の打撃だった。
なにがいけなかったんだ。
愕然として、洸野はベッドにへたりこんだ。
「ま、三年も付き合って、気付かなかったオマエは間抜けだって事だな」
青見が鼻で笑う。痛いところを突かれて、洸野は怒りで拳を握った。
「アンタだって、気付かなかったんだろ!」
「アイツがよそで遊んでたのを、俺は知ってた。どうでもいいから、黙ってただけだ」
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